マルチティアトレーニング

「中長距離のための科学的トレーニング」よりマルチティアトレーニングを紹介。横田真人さんについて調べていたらこの本が出てきました。どうやら横田さんもこの本を愛読されているようです。著者は1980年モスクワオリンピック、1984ロサンゼルスオリンピックで1500mを2連覇したセバスチャン・コーの父親、ピーター・コーと生理学者のデイビッド・E・マーティンです。セバスチャン・コーのトレーニングは陸上競技経験のない父の理論に裏打ちされたものでめちゃくちゃ計画的です。それが「マルチティアトレーニング(Multi-tier-Training)」。これは以下のような建物の図で表されます。

 この本の中に「1年でピークが来るのは長くても3週間」のようなことが書かれていました。その3週間のピークのためにマルチティアトレーニングでは1年間で準備をします。この1つの大きな周期を「マクロ周期」と呼んでいます。図でいうところの建物そのものですね。そしてその1週間は中長距離でいうと主に6段階に階層化されています。

X0・・・約1カ月の休養期間です。具体的にはサイクリングや水泳だったりのレクリエーションっぽいことや全く走らない人もいるようです。私は普段短距離をしていますがだいたい10月に最後のレースがありシーズン終了、11月はオフ期間ということでチームでの練習もなかったです。バーナード・ラガトもこれを取り入れています。目的としては、前マクロ周期の終わりには様々な競技会に参加、しかもそれは1年のピークです。身体に蓄積されたあらゆる疲労、物理的な身体の疲労だけでなく精神面でも回復を促進します。

X1・・・約3カ月の「有気的トレーニング」です。人間には主に無酸素と有酸素の2種類のエネルギー供給機構に分けられます。それら2つはさらに2つに細分化でき、無酸素系は

 ・パワー系・瞬発系を担う「ATP-CP系」

 ・ATP-CP系ほどではないが大きな力をある程度持続でき、陸上競技ではスピード持久力を担う「解糖系」

から成り立っています。有酸素系は

 ・「クエン酸回路」

 ・「酸化的リン酸化」

走っているときにどちらのシステムをどの割合で使っているのかはソースによってさまざまですが、本書では下記のようになっています。

ATP-CP系:解糖系:有酸素系

100m 70:22:8

200m 40:46:14

400m 10:60:30

800m 5:38:57 (見たことある配分と思ったらメラビアンの法則と全く同じ割合でした)

1500m 2:22:76

3000m <1:12:88 (3000m以上になるとATP-CP系の貢献はないと考えていい)

5000m <1:7:93

10000m <1:3:97

マラソン <1:<1:99 (マラソンは99%有酸素)

無酸素:有酸素で比較してみると

400m 70:30

800m 43:57

1500m 24:76

3000m 12:88

5000m 7:93

10000m 3:97

マラソン <1:99

 ソースによって割合が変わるのは競技者のレベルが違うからでしょうか。上の割合は正確には距離ではなく時間によって示され、よく言われるのが400mで男子と女子で構成が大きく変わるということ。日本の高校級でいうと男子は46秒秒や50秒で駆け抜けるわけですが、女子は55秒や60秒。100mと200m、200mと400mを見比べると分かりますが、短距離は1秒違うだけで全然違う無酸素・有酸素の配分になってしまいます。このことについて為末大さんも指摘していました。大人にとっての100mと子供の100mは全然違う、と。10秒近くで終わる大人と20秒近くかかる子供では無酸素・有酸素の割合が大きく変わり、言うなれば別競技です。100mと200mは

ATP-CP系:解糖系:有酸素系

100m 70:22:8

200m 40:46:14

となっており、ATP-CP系は約半分、解糖系と有酸素系は約倍になっています。

 少し脱線しましたが、上の表が800m・1500mは中距離、それより長い種目は長距離と区別される所以でしょう。人によっては3000mも中距離だ、そして世界トップクラスになると5000mも中距離だという人もいます。800mは無酸素と有酸素は1:1とも言えるほど無酸素の貢献度が高いです。瞬発系であるATP-CP系でさえ5%を占めています。オリンピック、世界陸上を見ていると分かりますが、800mに出場する選手は1500m以上の選手に比べて体つきが圧倒的に大きく、どちらかといえば400mの選手の体つきに近いです。これは800mという2分以下で完結するレースでは無酸素の能力が必要となるからだと考えられます。世界記録保持者デイビッド・ルディシャなんて上半身ムキムキですからね笑 

 1500mは約1:3と、恐らく一般人からしたらどこにそんな25%も無酸素の能力が要るんだよと思うはずです。しかし4分を切ってくるようなレースを見ていれば分かりますが400mを64秒前後で走るのは確かにスピードが要ります。(50mあたり8.0秒ですからね)3分45秒で400m60秒(50mあたり7.5秒)、3分30秒で400m56秒(50mあたり7.0秒)、と有酸素だけでは限界があることが分かります。

 これと同様に3000mと5000mの世界記録は400m60秒(50mあたり7.5秒)で駆け抜けるわけですから5000mを中距離と表現するのも納得できます。さすがに10000mとなると有酸素は97%も占めていますからこれは長距離でしょう笑 しかし世界陸上のラスト一周を見ていると400m53秒前後で帰ってくるわけですから一括りに「長距離」といってもレースの競技のレベルで大きく変わりそうです。

 マルチティアトレーニングの紹介なのに途中からエネルギー供給システムの紹介になってしまいました、、本で紹介されている階層は全部で7段階あります。残り5段階はいずれ紹介したいと思います。

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